先日、phonicaというレコード店で行われた「TENORI-ON EXHIVISION」というものに行ってきた。
TENORI-ONとは、メディア・アーティスト岩井俊雄氏がYAMAHAと共同開発した新時代シンセサイザーの名前だ。

僕は、数年前から雑誌などでこのテノリオンの存在を知って興味を持っていたのだが、昨年、簗田寺で岩井さんがテノリオンを使ったライブをしてくれて以来、開発日記ブログやyoutubeなどで再三チェックをしていた。
そのテノリオンの開発秘話を開発者の口から聞ける貴重なイベントが、ロンドンで行われると聞いて早速、出向いたのだった。
Phonicaレコードショップへ到着すると、店の中はすでにガヤガヤしていて、時間が来ると店の奥にあるクラブスペースへ案内された。

会場には、フリードリンクと軽食が用意してあり、来ている客はみなリラックスムード。そして、いたるところにテノリオンのデモが置いてあり、みんな慣れない手つきながらテノリオンを操作している。
僕も、順番を待ってテノリオンを操作してみるが、思った以上に簡単に気持ちの良い音が出てくる。適当にボタンを押すだけで、かっこいい音が作れるので、なんだか順番待ちをしている人たちに、自分の出しているカッコいい音を聞かれているようで、ずっと演奏していたくなる。(実はこれがテノリオンの持つ一番の魅力だと思う。)

ふと辺りを見ると、岩井さんが場内を見回っていたので、話しかけてみた。岩井さんは今日の主役であり、これから何時間か英語でテノリオンの説明をしなければならない状況なのに、とても穏やかに話をしてくれた。(普通の人なら気が高ぶってあまり人と話したくない状況だろう)
僕は岩井さんに、に今回はじめてお会いしたけれど、とても気さくで優しくて、話が面白くて、そして人の話を良く聞いてくれる人だ。こういう人が本当に頭の良い人なんだと思った。
岩井さんの話では、テノリオンをYMOの三方に渡したところ、教授はいたく気に入って遊んでいたそうで、細野さんは、「これは売れるね」とボソッと言っていたそうだ。
最近、岩井さんはサンレコでコーネリアスと対談しているし、著名人がこぞってテノリオンを絶賛しているので、テノリオンの知名度もすぐに上がることだろう。
さてさて、いよいよ岩井さんとYAMAHAによるテノリオンの紹介が始まった。
突然として、岩井さん自身によるテノリオンの演奏が始まる。沢山の人が集まる中、細かいテノリオンのボタンを押すのはとても勇気がいると思う。しかし岩井さんは臆することなく、繊細で美しいテノリオンの音を奏でた。演奏が終わるや否や、盛大な拍手が沸き起こり場内がどよめく。
そして、岩井さんによる解説が行われた。通訳を通して解説するのかと思いきや、すべて岩井さん自身による英語での解説。
これですよ。
やはり本当に自分が伝えたいことは、自分の言葉で伝えたほうが良いに決まっている。
たとえ通訳のほうが英語が上手くても(といっても岩井さん自身英語がお上手)、テノリオンを作った人の喉から発せられる言葉のほうが見に来ている人の心を捕まえるのに簡単だろう。
テノリオンの解説は、youtubeなどで映像がアップされているのでここでは詳しく述べないが、様々なアイデアと、相当な試行錯誤のもとテノリオンが開発されたのだと、観客の誰しもが理解できる内容のプレゼンテーションだった。

どんな人々の愛が、どれほどテノリオンに注がれているのかが伝わってきたし、
僕は、これはもう職人の域だと思った。
シンセサイザーというものは、僕が生まれるずっと前からすでにあったし、僕らは、電子音に慣れ親しんで育った。
つまり、電子音楽は僕らの世代のフォーク・ミュージックであるとともに、20世紀から続く伝統芸術だ。
ピアノが17世紀に開発された音楽装置だとすれば、シンセサイザーは20世紀に開発された音楽装置で、この先、伝統的な楽器になっていくことだろう。そんな中、新たなハードウェアシンセサイザーがこうして職人芸のもと生まれたわけで、
大げさに言えば、テノリオンは、何世紀後になってもきっと21世紀初頭に生まれた電子楽器の新たな形として、語り継がれることになるはずだ。
(後編へ)